PROJECT
プロジェクト紹介
地区開発
京都リサーチパーク(KRP)
ラボ棟の新築により
KRP地区に新たな価値を
創出する。
京都・五条通に面して広がる京都リサーチパーク(以下、KRP)。
イノベーションの推進拠点として1989年に誕生した、オフィス・ラボの集積地だ。
ここに新たにラボ棟を新築する計画が立ち上がった。
KRP地区創設以来、初の建替え事業でもある。
京都市内有数のビジネス拠点に、新たな価値を生み出す挑戦が始まった。
MEMBER

開発推進
太田 理樹
Masaki Ota
第1開発部
2012年入社
工芸科学部 造形工学課程卒
KRPの歴史のなかで初めてとなる建て替え計画。
大阪ガス都市開発が開発を手がけるKRP地区は、研究開発型企業や京都府・京都市の産業支援機関が軒を連ねる新産業創出拠点として、イノベーションを起こそうとする世界中の方々に魅力的な交流の舞台を提供している。1989年に全国初の民間運営によるリサーチパークとして地区をオープンして以来、新しいビルが順次開発されてきた。約5.9haの敷地に、コワーキングオフィスから3,000㎡超の大規模区画までさまざまな規模のオフィスやラボを展開。京都市内有数のビジネス拠点として広く認知されている。
地区開発にあたっては、地区全体の将来の姿を描き、開発を進めてきた。直近の新棟開発としては、2021年に低層階を商業施設、上層階をオフィスとする構成のKRP10号館が竣工。京都の主要幹線道路である五条通に面し、隣接するKRP9号館と連続性あるデザインで、京都らしい景観を形成している。加えて、既存棟についても機能が低下している区画については大規模なリノベーションを行うなど、地区の魅力を維持向上するリニューアルも進めてきた。

そうしたなか、増加傾向であるスタートアップ事業者を含む幅広い実験研究施設の需要に対応するため、レンタルラボの新規供給を検討。同時に、築30年近い2階建ての建物であるスタジオ棟がリニューアルを行う時期もきており、最新設備を備えたビル「KRP11号館」に建て替えてはどうかという計画が持ち上がった。既設建物の建替え計画は KRP 地区の30有余年の歴史の中で初めての取り組みである。その開発推進担当として任命されたのが太田であった。


「まず意識したのが、KRPという場所。ビジネスエリアとして、京都では認知度が高く、研究開発企業から注目されています。また、KRPは多数の先輩が開発を手掛けてきた地区開発です。大規模なオフィスやラボ、利便性を高める商業施設、さまざまな人が交流する場の提供、五条通に面した都市景観の形成など、さまざまな視点で地区の価値を高めるために開発が進められてきました。バトンを受け継いだものの、9号館や10号館が高い評価を得ているなかで、次の11号館で評価を下げるようなものは建てられないというプレッシャーがありました」(太田)
こうしてKRP地区に新たな価値を創出するチャレンジがスタートした。
需要が高まっているラボ棟を新築する。
KRP11号館をどのような用途の建物とするかについては、さまざまな観点から検討が行われた。近年の研究開発需要の高まりから、KRP地区のレンタルラボ区画は満床に近い状態が継続しており、入居中企業からの増床の相談や、新規企業からの入居希望の問合せに答えることができない状態だった。また昨今、人材採用強化として働きやすい環境を整えることなどを背景に、研究開発企業が立地改善を進める傾向があり、その点、KRP地区は京都駅から2駅とラボとしては好立地であるという利点があった。これらのニーズや立地評価から、KRP11号館についてはレンタルラボ棟とする計画となった。
KRP地区内では過去にもラボの開発実績はあるものの、開発実績の多いマンションとは異なり、標準的な仕様などが確立されていなかった。また業界内全体においても、近年開発プロジェクトが増えてきてはいるが、事例の少ないアセットである。
「だからおもしろいと思いました。いわゆる『こうすれば正解』というものがあまりないので、何をどう進めればよいかがわからない一方で、新しいことにチャレンジするわくわく感を覚えました」(太田)

まず手をつけたのが、基本計画の作成だ。具体的にどのようなラボとするかを設計会社と協力して練り上げていくにあたっては、大きく二つのことを重視した。
一つ目はテナントのニーズに対する拡張性である。ラボを必要とする企業には、電気系や機械系、薬品系などさまざまな業種があり、研究内容によってラボに求められる仕様は大きく異なる。そのため、竣工後に入居する企業の要望や将来的なニーズに応じて、柔軟に追加・拡張・改修できる建物仕様とした。例えば、多種多様な実験機器を想定したエネルギー容量設定や、実験室の面積変更が可能な間仕切り、機器の搬入をスムーズにする経路設計などだ。またこの仕様を決定するにあたっては、KRP地区の運営を担い、ラボ棟のニーズを把握している京都リサーチパーク株式会社に蓄積された知見やお客さまの声が活かされた。

- ※KRP11号館 ラボフロア完成予想図
二つ目は交流を促進する場づくりである。研究開発を効果的に進めるためには、新たな発想が重要となる。そこで入居企業や入居者どうしの交流を誘発する場として、打合せやセミナーなどさまざまな用途で使用できるオープンスペースを計画した。ここでは可動家具の設置により入居者が使い方を決められる仕様とするほか、試作品を見せあい意見を取り入れる「プロトタイピング」を常に行えるような展示スペースを設ける予定である。また入居企業のラボが並ぶエリアでは、廊下にホワイトボードや掲示板を設置することにより、偶発的なコミュニケーションが生まれる仕掛けを取り入れた。このように、さまざまな角度からイノベーションに向けた刺激を与えあう環境づくりを行った。
ほかにも、外装については京都らしさを取り入れるため、和の伝統的な建築要素である「すだれ」に着想を得たファサードを採用した。これにより、バルコニーに設置された設備機器や配管をほどよく隠すとともに、研究環境に影響を与える日射や換気といった環境制御の面でも効果を発揮する作りとした。
こうしてプロジェクトの収支を含めた基本計画を完成させて、太田たちメンバーは社内意思決定の手続きへと進んだ。

- ※KRP11号館 2階共用ラウンジ完成予想図
大きな壁となった「コスト調整」。
基本計画に対する社内意思決定が完了し、プロジェクトは次なるフェーズへと入っていったが、ここで太田たちにとって大きな壁となったのが「コスト調整」だった。というのもこの後プロジェクトは、基本計画に沿ってさらに具体的な設計を行う基本設計、建物の建設に向けて細部を確定させる実施設計、施工会社の選定へと進んでいくが、この過程でコスト調整が思うようにできず、当初の収支計画が崩れるようなことがあれば、プロジェクトは頓挫してしまうためだ。折しも建設業界は人手不足や材料費の高騰などに見舞われ、工事費は右肩上がりが続いている。そこで太田は、求めるべき機能と、それにかかるコストとのバランスを精査し、両方の最適化を図る試みを進めた。

「まず行ったのは、当社の技術部門や設計会社に対して、コストを調整しなければならない現状をしっかりと共有することでした。設計にはどうしても、『つくるからには良いものをつくりたい』という意識が働きます。もちろんそれは大事なことなのですが、最終的に借りていただくテナントさまにとってのメリットを考えたときに、それだけのコストをかけて実施・導入すべきことなのかどうかは精査が必要です。そしてその検討は、プロジェクト全体を統括する開発推進担当である私の役割。そのため、費用対効果を見据えた機能とコストの最適化については私がしっかりと方針を示しながら、具体的にそれをどう実現するかについては、関係者全員でアイデアと知恵を出し合いながら調整を図っていきました」(太田)
施工会社も巻き込んで実施設計、そして着工へ。
同時に太田は、施工会社との金額交渉にも身を砕いていた。この11号館プロジェクトを担当すると決まったときから、施工会社各社との関係性を強化すべく、足繁く先方に顔を出してはコミュニケーションをとり、頼み事や相談事を気軽に言い合える仲を築くよう努めてきた。加えて今回は、基本設計という計画の早い段階で、施工会社に見積を依頼するというイレギュラー的な進め方を採用した。これにより、次のフェーズである実施設計の検討に、施工会社もチームの一員として協力いただく体制を作ったのである。
こうして関係者と話し合い、一つひとつ合意しながら課題を解決していった太田が、そのなかでとりわけ大切にしていたのが皆の「納得感」だった。

「議論の場ではいろいろと意見を戦わせながらも、最終的には関係者全員がちゃんと納得して『これでいこう』と決めて、次のフェーズに進んだほうがよいと考えました。すると、モチベーションも高く維持できます。人によってはリーダーシップを発揮して、ぐいぐいメンバーを引っ張るのかもしれませんが、私はそういうタイプではなく、どちらかといえば協調性を強みとするタイプ。大阪ガス都市開発という会社自体も、協調性を大切にするデベロッパーではないでしょうか」(太田)
こうして検討に検討を重ねた結果、ついに実施設計図面が完成。その図面をもって太田は施工会社と最終的な金額交渉を行い、当初計画の予算におさまるかたちで妥結。無事に工事請負契約を締結するに至った。次のステップである「着工」へと進めることとなったのだ。
「もう、ホッとしたというのが正直なところです。それだけ環境としては厳しいものがあったので。ただ、もちろん着工はゴールではなく、いわば次のフェーズがスタートしただけのこと。目指すゴールはまだ先です。やはり建物が完成し、テナントさまに入っていただいて、実際に不便も不具合もなく使っていただきながら日々活動が行われているのを目にして初めて、本当の意味で『できたんだな』という達成感がじんわり感じられるのだと思います」(太田)

- ※KRP11号館 外観完成予想図

